街から消えつつある公衆電話、それでも残すべき理由とは
スマートフォンが一人一台に近い存在となった今、公衆電話が街から減った最大の理由は明快です。日常の連絡手段として使う人が大幅に減り、設置基準も見直されたためです。
しかし、公衆電話の役割そのものが終わったわけではありません。携帯電話をなくしたとき、充電が切れたとき、そして災害で通信が混雑したときには、個人の端末に依存しない連絡手段として価値があります。
この記事で分かることは次の4点です。
- 公衆電話が減った背景と設置制度の変化
- 硬貨・テレホンカードを使った基本操作
- 停電や災害時に期待できること、できないこと
- 普段から備えておきたい実用的な使い方
結論:日常の主役ではないが、非常時の予備回線として価値がある
公衆電話は、現代の生活で毎日使う通信機器ではありません。それでも、スマートフォンとは異なる条件で使える公共的な通信手段として残す意味があります。
現在の価値を整理すると、次のようになります。
- 自分の携帯電話が故障、紛失、電池切れでも発信できる
- 110番・118番・119番へ硬貨やカードなしで通報できる
- 災害時には公衆電話の通話が無料化される場合がある
- 避難所などには「災害時用公衆電話」が開設されることがある
- 子どもや旅行者など、国内で使える携帯回線を持たない人も利用できる
一方、どこにでもあり、誰にでも便利な設備ではなくなりました。設置場所は減り、相手の電話番号を覚えていなければ発信できません。100円硬貨を使っても、おつりは出ないという不便さも残っています。
したがって現代の公衆電話は、「スマートフォンの代用品」よりも、通信手段を一つ増やすための社会インフラとして捉えるのが適切です。
公衆電話はなぜ街から減ったのか
減少の中心にあるのは、携帯電話の普及による利用回数の低下と、それに合わせた設置制度の変更です。
携帯電話が日常の連絡を引き受けた
待ち合わせ場所から家へ電話する。外出先で勤務先へ連絡する。駅で迎えを頼む。かつて公衆電話が担っていた場面の大部分は、携帯電話やメッセージアプリへ移りました。
NTT東日本の資料によると、公衆電話の施設数は全国で1984年度の93万4,903台を頂点に減少してきました。2004年度には44万2,302台、2013年度には19万5,514台となっており、減少が一時的なものではないことが分かります。
これは電話機の人気が薄れたというだけではありません。個人が端末を持ち歩けるようになり、「街に共用電話を多数置く」という仕組み自体の必要量が変わったのです。
2022年に設置基準が見直された
公衆電話には、最低限の通信手段を確保するための「第一種公衆電話」と、利用状況などを踏まえて設置される第一種以外の公衆電話があります。
2022年4月の制度見直し後、第一種公衆電話の基準に使われる区域は、市街地では1km四方、それ以外では2km四方が基本となりました。すべての街角に残すのではなく、一定の区域ごとに最低限の台数を確保する方向です。
NTT東日本・西日本が公表した削減方針では、第一種公衆電話は東西合計で2021年度までの約10万9,000台から、2031年度に約3万台まで減らす見込みが示されています。これは実績値ではなく計画上の見込みですが、今後も台数の絞り込みが続く方向を示しています。
ここがポイント: 公衆電話は需要がなくなったから一律に撤去されるのではなく、平時の利用減少に合わせて配置を絞りつつ、最低限の通信手段と災害対策を別の形で確保する方向へ変わっています。
赤・青・黄・緑・グレー――電話機が映した時代の変化
公衆電話の色や操作方法は、その時代に求められた機能を反映しています。
日本の公衆電話は1900年、上野駅と新橋駅に設置された「自働電話」から始まりました。その後、商店などに置かれた赤電話、屋外で終日使える青電話、100円硬貨に対応した黄色い電話へと発展します。
1982年にはテレホンカード対応機が登場しました。小銭を大量に用意せず長距離通話ができ、残度数を表示できる点は、硬貨式に対する大きな改良でした。緑色のカード式電話は、昭和末期から平成にかけて駅や街角の標準的な通信端末になります。
グレーのデジタル公衆電話には、機種によってデータ通信機能も搭載されました。ただし、INSネットの「ディジタル通信モード」終了に伴い、この機能は2024年1月から地域ごとに利用できなくなっています。電話機が残っていても、当時の全機能を維持できるとは限らない例です。
公衆電話の使い方を今あらためて確認する
基本操作は難しくありませんが、電話機の種類や利用場面によって手順が少し異なります。
通常の電話をかける
一般的な手順は次のとおりです。
- 受話器を上げる
- 硬貨を投入するか、テレホンカードを挿入する
- 発信音を確認する
- 相手の電話番号を押す
- 通話後に受話器を戻す
使用できる硬貨は10円と100円です。100円硬貨を使った場合、通話料金が100円未満でもおつりは出ません。短い通話には10円硬貨を複数枚用意したほうが無駄を抑えられます。
公衆電話の通話料金は、相手の回線種別や時間帯などで異なります。投入した硬貨が少ないと通話途中で警告音が鳴るため、必要に応じて硬貨を追加します。
緊急通報をする
110番、118番、119番への緊急通報には、硬貨もテレホンカードも必要ありません。
- 緊急通報ボタンがある機種:受話器を上げ、赤いボタンを押してから番号を押す
- 緊急通報ボタンがない機種:受話器を上げ、そのまま番号を押す
118番は海上保安庁への緊急通報です。海上での事故や不審船などを通報する番号で、110番・119番と同じく無料で利用できます。
災害による無料化が実施されたとき
大規模災害などでNTT東日本・西日本が無料化を実施した場合、デジタル公衆電話では受話器を上げてそのまま発信できます。
アナログ公衆電話では、いったん硬貨を入れるかテレホンカードを挿入して発信します。硬貨は通話終了後に返却されます。無料化は災害の発生と同時に必ず行われるものではなく、通信規制や社会的混乱などを踏まえて事業者が判断します。
災害時に公衆電話が注目される理由
公衆電話の強みは、個人所有のスマートフォンとは異なる通信経路と運用条件を持つことです。
通信が集中したときに比較的つながりやすい
大規模災害の直後には、多くの人が一斉に電話をかけるため、電話網が混雑します。携帯電話や固定電話では、ネットワーク全体を守るために発信が制限されることがあります。
公衆電話からの発信は、災害時に優先的に扱われます。ただし、これは必ず接続できるという意味ではありません。相手側の回線や設備が被災している場合や、通話が極端に集中している場合には、つながらない可能性があります。
だからこそ、長電話は避ける必要があります。無事であること、現在地、次の連絡時刻などを短く伝え、回線をほかの人に譲るのが基本です。
停電時にも硬貨で使える場合がある
公衆電話は電話回線側からの給電などにより、停電時にも硬貨を使って発信できる場合があります。一方、停電時はテレホンカードを利用できません。グレーのデジタル公衆電話も、内蔵バッテリーが尽きると一般通話ができなくなる場合があります。
つまり、「公衆電話なら停電中も無条件で使える」と覚えるのは危険です。防災用品に10円硬貨を入れておき、現地で発信音を確認するのが現実的です。
避難所には災害時用公衆電話がある
学校、公民館、自治体施設などには、災害発生時に無料で開設される「災害時用公衆電話」が事前設置されています。平時から誰でも使える街頭の電話ではなく、施設管理者が災害時に開設する設備です。
NTT東日本エリアでは、2025年9月末時点で776自治体、2万5,011カ所に5万1,056台の設置が完了しています。公開ページでは、施設管理者の許諾を得た設置場所を検索できます。
台数だけを見れば街頭の電話は減っていますが、災害時の連絡手段は避難所へ重点的に配置されているのです。
スマートフォンと比べると何が違うのか
両者は優劣ではなく、依存する条件が異なります。
| 比較軸 | 公衆電話 | スマートフォン |
|---|---|---|
| 平時の実用性 | 設置場所まで移動する必要があり、発信中心 | 通話、メッセージ、地図などを一台で利用可能 |
| 電池切れへの強さ | 利用者自身の充電状態に左右されない | 端末の電池が切れると原則利用できない |
| 災害時 | 発信が優先的に扱われ、無料化される場合がある | 情報収集に強いが、基地局障害や通信混雑の影響を受ける |
| 操作に必要なもの | 電話番号と、通常時は硬貨またはカード | 端末、電池、契約回線またはWi-Fi |
| 入手しやすさ | 設置数が減り、地域差も大きい | 所有していれば場所を選ばず使いやすい |
| 向いている場面 | 端末の紛失、故障、電池切れ、緊急通報、災害時の予備手段 | 日常の連絡、情報検索、複数人との共有 |
公衆電話には、連絡先一覧も地図も保存されていません。その代わり、自分の端末にトラブルが起きても利用できます。この「不便だが独立している」という性質が、現代に残る価値です。
公衆電話が役立つ人、使いにくい人
公衆電話を実用的に使えるかどうかは、利用者の準備で大きく変わります。
特に価値がある人
- 携帯電話を持たない子どもや高齢者
- 災害時の連絡手段を複数用意したい家庭
- 長距離の徒歩移動や旅行をする人
- スマートフォンの紛失・故障時に備えたい人
- 国内で使える携帯回線を持たない旅行者
子どもに使い方を教える場合は、機械の操作だけでなく、自宅や保護者の電話番号を確認する練習まで必要です。
そのままでは使いにくい人
- 家族や勤務先の電話番号を端末内にしか保存していない人
- キャッシュレス決済だけで現金を持ち歩かない人
- 音声通話より文字や画像での連絡が必要な人
- 近隣の設置場所を把握していない人
特に大きな弱点は、番号が分からなければ電話をかけられないことです。公衆電話の場所だけ覚えても、連絡先を取り出せなければ備えとして完成しません。
利用前に知っておきたい注意点
公衆電話は単純な機械に見えますが、現在の利用環境にはいくつか制約があります。
- 100円硬貨のおつりは出ない:短い通話には10円硬貨が扱いやすい
- 停電時はテレホンカードを使えない:防災用には硬貨も準備する
- 着信には向かない:電話機によっては電話番号が表示されず、折り返し先にできない
- 設置場所は変わる:閉店や施設改修などで撤去・移設されることがある
- 無料化は自動ではない:大規模災害でも、実施の有無はNTTの発表を確認する
- 通話先も被災する:公衆電話側が動いていても、相手の回線が使えるとは限らない
災害時には音声通話だけに頼らず、災害用伝言ダイヤル171やweb171、携帯各社の災害用伝言板などを組み合わせることが重要です。
今からできる「公衆電話の備え」
公衆電話を本当に予備手段にするには、一度使っておくのが最も確実です。
1. 自宅・学校・勤務先周辺の場所を調べる
NTT東日本・西日本は、公衆電話の設置場所検索を提供しています。自宅付近だけでなく、通勤・通学経路と指定避難所の周辺も確認しておきます。
検索結果をスマートフォンに保存するだけでは、電池切れの際に見られません。防災マップへ印を付けるか、住所を紙に控えておくと確実です。
2. 10円硬貨と連絡先を用意する
防災ポーチには、少額の10円硬貨を入れておきます。硬貨同士が散らばらない小袋にまとめると扱いやすくなります。
紙の連絡先には、最低でも次を記載します。
- 家族や保護者の電話番号
- 勤務先・学校の電話番号
- 遠方に住む親族の電話番号
- 集合場所と避難先
遠方の親族を連絡先に含めるのは、被災地域内の電話が混雑したときに、地域外を経由して家族間の情報をまとめてもらえる可能性があるためです。
3. 171を体験利用する
災害用伝言ダイヤル171には体験利用日があります。毎月1日と15日、正月三が日、防災とボランティア週間、防災週間などに操作を試せます。
家族で「誰の電話番号に伝言を残すか」を決めておかなければ、サービスが使えても伝言を見つけられません。公衆電話の操作と併せて、登録・再生の手順を確認しておくと実戦的です。
よくある疑問
公衆電話からスマートフォンへ電話できる?
通常の電話番号を入力すれば発信できます。料金は携帯電話宛ての料金区分に従い、残額が不足すると通話が切れるため、硬貨を追加できるようにしておきます。
テレホンカードは今も使える?
磁気テレホンカードに対応する電話機では利用できます。ただし停電時には使えません。防災目的なら、カードだけでなく10円硬貨も用意してください。
災害時は必ず無料になる?
必ずではありません。災害の規模、交通機関の混乱、携帯電話・固定電話の通話規制などを総合してNTT東日本・西日本が判断します。無料化中でも、他社が提供する即時課金ではないサービスなどは無料にならない場合があります。
公衆電話の番号へ折り返せる?
電話機によって扱いが異なり、原則として折り返し先にする用途には向きません。「こちらから何時に再度かける」と約束するなど、発信専用として考えるほうが確実です。
まとめ:残す価値は「普段使わないとき」に現れる
公衆電話が減ったのは、携帯電話が日常の連絡を担い、利用の少ない設備を従来と同じ密度で維持する必要が薄れたためです。今後も街頭の設置数は減る方向にあります。
それでも、個人の端末、充電、契約回線に依存しない発信手段は貴重です。公衆電話の価値は、昔の電話文化を懐かしむことより、通信障害や災害に備える選択肢を増やせる点にあります。
備えとして機能させるために、次の3点だけは実行しておきたいところです。
- 最寄りの公衆電話と避難所の災害時用公衆電話を調べる
- 10円硬貨と紙の連絡先を防災用品に入れる
- 家族で公衆電話と171を一度使ってみる
設置場所は今後も変わります。防災用品を点検する日には、電池や水だけでなく、近くの公衆電話が現在も利用できるかまで確認することが次の実用的な一歩です。
